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関節センター

関節鏡視下手術

関節鏡視下手術(関節鏡手術)は、先端にカメラのついた内視鏡という器具を関節内に挿入し、内部の異常を詳細に観察しながら、体への負担が少ない治療を行う手術方法です。

対象疾患

膝関節

  • 膝前十字靭帯損傷に対する鏡視下靭帯再建手術
  • 半月板損傷に対する鏡視下半月板縫合術・部分切除術
  • 反復性膝蓋骨脱臼に対する関節形成術

肩関節

  • 腱板断裂に対する鏡視下腱板修復術
  • 反復性肩関節脱臼に対する鏡視下関節唇形成術

膝関節

半月板損傷

半月板は単独損傷と、靭帯損傷などと合併して損傷する場合があります。運動中に膝を捻るなどの大きな力が加わって損傷する場合や膝が深く曲がったりすると半月板が脛骨と大腿骨の間に挟まれて損傷を受けます。また、スポーツ外傷のひとつである前十字靭帯損傷では、脛骨が前方に亜脱臼し、半月板の後方に異常なストレスが加わるため損傷が生じやすくなります。また外傷による大きな力がかかったときだけでなく、繰り返す微細なストレスや、加齢による変性が原因となることもあります。高齢者ではささいなケガや日常生活動作でも損傷することがあります。

半月板が損傷すると運動時の痛みや膝の伸ばしにくさ、ひっかかりの症状がでてきます。ひどいときはロッキングといって膝が固まって動かなくなることもあります。

症状や半月板の不安定性が軽度であると思われる場合は保存的治療を行います。スポーツや日常生活動作でも困る場合は鏡視下縫合術や部分切除術を行います。当院では可能な限り半月板温存を目指して縫合術を施行します。変性した半月板や治癒が見込めない症例は部分切除術を施行します。

半月板手術後の術後経過は、切除術か縫合術かにより大きく異なります。

半月板部分切除術後にはサポーターを含む装具などでの固定は不要で早期から可動域訓練を開始します。また術翌日より歩行訓練を開始します。競技復帰までに約3カ月かかります。

半月板縫合術後には、屈伸動作や過度な力が加わることで半月板縫合部位の再断裂のリスクが高まるため、少なくとも1~2週間は膝装具で固定を行います。また術後はしばらく(2~3週間)免荷(体重をかけない)が必要なため松葉杖を使用します。競技復帰までに約6カ月かかります。

前十字靱帯損傷

膝前十字靱帯はスポーツの際にジャンプの着地や急な方向転換で膝関節をねじることで損傷します。受傷から約2〜3週間が経過すると、損傷に伴う炎症がとれて歩くことも可能となり、日常生活に支障がない程度にまで改善することも多いとされます。しかし、症状が改善したからといって、断裂した前十字靱帯が治ったわけではなく、靱帯は切れたままです。したがって走行時や急な方向転換で膝崩れが生じ、スポーツ活動に支障をきたす場合が多くみられます。また前十字靭帯損傷に伴い半月板損傷を合併することが多く、放置すると変形性膝関節症に移行する恐れがあります。そのためスポーツ選手を中心に多くの方に手術療法が適応となります。

手術治療は、関節鏡下に行われ、自家腱と呼ばれる自身の腱を用いて靭帯再建を行います。自分の膝の内側にある腱(半腱様筋腱・薄筋腱)あるいは膝の前方の腱(骨付き膝蓋腱)を用いて前十字靱帯を再建します。それぞれに利点・欠点があり、患者さんのスポーツや特性に応じてどこの腱を使用するかを判断します。

術翌日から松葉杖歩行を開始して、リハビリ(可動域訓練や下肢筋力訓練)を行います。術後3~4カ月からジョギング、6カ月から練習復帰、10カ月(患肢の筋力が健側の90%以上に回復)でスポーツ復帰を目指します。

正常な前十字靭帯
断裂した前十字靭帯
再建された前十字靭帯

反復性膝蓋骨脱臼

膝のお皿と呼ばれる膝蓋骨が本来あるべき位置から外れてしまうことを膝蓋骨脱臼といいます。日常生活やスポーツ活動中に急な方向転換や着地の衝撃によって発生するケースが多く、特に10代から20代の若い世代でよく見られます。膝蓋骨が外側に外れてしまうことがほとんどで、膝蓋骨を外側に外れないように内側から押さえてくれている靱帯を内側膝蓋大腿靱帯(MPFL)と呼び、脱臼によりこの靱帯の機能が破綻します。何度も脱臼を繰り返してしまうことを反復性膝蓋骨脱臼と呼び、この状態になると日常生活でもすぐに脱臼していまいます。

保存治療では太ももの内側の筋肉をトレーニングすることで膝蓋骨が外側に外れないようにしたり、膝蓋骨の脱臼防止用の装具を利用したりします。

手術治療では自家ハムストリング腱を用いた内側膝蓋大腿靱帯(MPFL)再建術をおこなっていますが、先天的な要因が原因で膝蓋骨が外れやすくなっていることもあり、脛骨粗面移行術などの骨切り術を併用しなければならない場合もあります。

手術後についてですが、術後より膝の可動域訓練(曲げ伸ばし運動)を開始してリハビリを進めていきます。筋力が改善してきたら術後3カ月でジョギングを開始し、6カ月程度でスポーツ復帰を許可しています。

肩関節

腱板断裂

腱板とは上腕骨と肩甲骨をつなぎ、肩を安定化させる4つの筋肉(棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋)から成る筋群です。

腱板断裂とは文字通りその腱板が断裂することをいい、その背景には、腱板が骨と骨(肩峰と上腕骨頭)にはさまれているという解剖学的関係と、腱板の老化があります。

腱板断裂が生じると、肩を動かしたときの痛みや、それに伴う肩の動きの制限が見られますが、夜間痛の訴えもよく聞かれます。夜、じっとしているのに肩がズキズキしたり、寝返りするだけで肩の痛みを感じ、肩の痛みで眠れないという方もよくいらっしゃいます。

治療としては痛みに対しては鎮痛薬の内服や、肩関節内へのヒアルロン酸やステロイドなどの注射を行います。腱板のすべてが断裂することは少ないので、残っている腱板の機能を賦活させる腱板機能訓練(リハビリテーション)も行います。ただこれらの薬物やリハビリテーションの効果がみられない場合は、手術を行います。

手術療法としては、主に関節鏡(内視鏡)を用いた腱板修復術を行っております。5mm程度の穴を5-6箇所あけ、上腕骨に糸が付いたビスを数個打ち込んで、切れた腱板をもう一度付着部に縫い付けて修復します。術後は断裂の大きさにより約4~6週間、装具による固定が必要です。

腱板修復術のイメージ
術前後の関節鏡画像

手術後は、腱板が修復するまで時間が必要です。

そこで、修復した腱板に収縮や緊張などのストレスを加えないように術後3~6週間装具を装着します。手術をした腱板の修復には約3カ月を要するため、再断裂は3カ月以内に多いといわれています。したがって、肩に負担のかかる運動は少なくとも術後約3カ月以降となります。年齢や断裂形態、筋力、術後の回復具合により異なりますが、軽作業の復帰が術後3カ月以降、重労働がおおむね術後6カ月以降が目安です。

術後装具(←未着?)

反復性肩関節脱臼

肩関節において繰り返し脱臼するようになることを反復性肩関節脱臼といいます。肩関節脱臼は整復されると疼痛もなくなり、治ったように思われることが多いですが、実際は肩の前方にある関節包と関節唇から構成されている組織が肩甲骨側の壁から剥がれてしまい、それが安静にしていても修復されず、そのまま緩むことで肩が繰り返し脱臼するようになります。脱臼に対する恐怖感から生活に制限がかかり、スポーツ活動が不自由になります。

手術は関節鏡を用いて行います。糸のついたビス(アンカー)を骨に打ち込んで損傷した関節唇・緩んだ靭帯に緊張をかけて修復します。手術後は3週間装具での固定を行います。手術をした組織の修復には約3カ月を要するため、肩に負担のかかる競技やトレーニングの開始は術後約3カ月頃となります。

競技完全復帰時期はスポーツ種目や個人の回復具合により異なりますが、術後6カ月頃を目標とします。