放射線治療
はじめに
がんは、国の死亡率の約25%弱を占め(図1)年々増加の一途を辿っています。(図2)(令和4年度(2022) 人口動態統計月報年計(厚生労働省)
これに対し国のがん対策は、“罹患率と死亡率の激減”を目標に、様々ながん診療(手術 放射線治療 化学療法)が行われています。
この結果、がんの5年相対生存率は、1993-1996年~2009-2011年に10.9ポイント上昇し、放射線治療患者数(件数)も、1990年から比べると増加していることがわかります。(図3,4)
死因別年間死亡数の割合


年別診断例の5年相対生存率

放射線治療患者数

放射線治療とは
がん治療には、手術・化学療法(抗がん剤治療)と放射線治療の3本柱があり放射線治療は、手術と同様で限られた病巣に行う治療です。
その特徴は、切らずに治すことで臓器や形態が温存でき、手術困難な部位にも実施できる点です。身体的な負担が少ないため、高齢の方や合併症のある方にも安心して受けられる治療の選択肢の一つになります。
単独で放射線治療を行うこともありますが、手術や薬物療法と併用されることもあります。

放射線治療の種類
放射線治療には、様々ながんを治す“根治治療”とがんによる苦痛の症状を和らげ生活の質(QOL:quality of life)を保つ“緩和治療”があります。
根治治療は、病巣やリンパ節を標的としてがんを治す治療です。治すのみが目的ではなく、治療後数カ月経って起こる可能性のある有害事象をできる限り少なくすることも配慮した治療です。
緩和治療は、がんを治すことが難しいと判断される病状において、がんによる痛みや出血などの症状を和らげる治療です。短い治療期間で痛み等を和らげ、QOLの維持・向上を図ることを目的とします。
当院では、頭頸部がん、肺がん、乳がん、消化器がん、泌尿器がんなどの様々ながんに対する根治治療、がん性疼痛やがん性出血などの症状を和らげる緩和治療を積極的に行っています。また、前立腺がんの多発骨転移に対する緩和治療では、放射線を放出する物質(放射性同位元素: RI:radioisotope)を体内に投与し、がんに集積したRIで治療する放射線内用療法も可能です。
悪性疾患のみでなく、甲状腺眼症やケロイドなどの良性疾患に対する治療も実施しています。
当院の治療装置 関連装置
放射線治療装置Clinac iX(バリアン社製)1台、三次元放射線治療計画装置Eclipse (バリアン社製)2台 定位放射線治療計画装置i-plan(ブレインラボ社製)1台を導入しています。


本装置は、治療計画装置で決められたがんの形を、搭載されたマルチリーフコリメータ(MLC:multi-leaf collimator)を用いる事で高精度に再現できます。搭載された診断用X線装置(OBI:on-board image)により事前にX線撮影やCT撮影を行い、照射位置の調整をして治療を行う画像誘導放射線治療(IGRT:image-guided radiation therapy)が可能です。強度変調放射線治療(IMRT:intensity modulated radiation therapy)と定位放射線治療(SRT:stereotactic radio therapy) の高精度放射線治療にも対応しています。
IMRTは、従来の治療技術では不可能であった複雑な位置関係をしている正常組織への放射線を少なくし、がんの形状に合わせ、多方向から放射線の強弱をつけて照射する方法です。
頭頚部の治療では、舌や唾液腺への照射が回避されることによって味覚障害や、唾液の減少のような有害事象が軽減されます。前立腺の治療では、直腸への線量が軽減され排便痛や、出血のような有害事象が軽減できます。
当院では、IMRTを強度変調回転放射線治療(VMAT:Volumetric Modulated Arc Therapy)で実施しています。
VMATは、治療時間が短縮され、治療台上での体内の腫瘍の動きによる影響を軽減させることが可能です。
SRTは、がんに一度に高線量の放射線を集中させる照射法です。がんの広がりが限られた病巣に用いられる治療です。
脳腫瘍(脳転移)、肺がん(肺転移)、肝がん(肝転移)に実施しています。



当院の役割と人員体制
当院は、急性期医療を提供する地域の中核病院(兵庫県がん診療連携協議会 準拠点病院)として近隣病院と連携しがん治療を担っています。
放射線治療は、いろいろな職種によるチーム医療で対応し、下図のような流れで行います。

当院の体制は、放射線治療医(常勤医1名 非常勤医1名)、診療放射線技師2名、放射線科看護師1名、診療補助者1名などが協力して治療を行います。また、患者さんの情報共有の為週一回カンファレンスを行っています。
放射線治療医は、治療方針の決定、放射線治療計画を作成し治療中・治療終了後の有害事象の確認対応を行います。
診療放射線技師は、放射線の照射や治療計画CT撮影を行っています。安全に放射線治療が実施できるように線量検証や装置の点検や管理を行います。
放射線科看護師は、安心して治療が受けられるように、治療前のオリエンテーション、治療中の体調管理や有害事象の確認、治療後の生活のアドバイスなどを行います。また、治療について悩みや困っていることなどの相談やケアを行います。必要に応じて院内、院外の様々な医療チームや施設と連携を図ります。
診療補助者は、診察の補助を行い治療全体がスムーズに行えるよう医師、看護師や放射線技師と連携し業務を行います。
当院での診療
- 診察日:月曜日~金曜日 9時~16時(予約制)
- 治療日:月曜日~金曜日 9時~17時(予約制)
2023年度の治療実績
- 新規患者数 145名(同一患者 別照射部位を含む)
- 治療件数 4157件