治療内視鏡について
内視鏡的粘膜切除術(EMR)
EMR(内視鏡的粘膜切除術)とは、胃や大腸にできたポリープを内視鏡を使って切除する治療方法です。
病変の下の粘膜下層へ生理食塩水などを注入し、病変を人工的に隆起させて、粘膜ごとスネアと呼ばれる円形の電気メスを使用し病変を切除する手技です
2泊3日程度の入院が必要となります
内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)
当院ではEMRで取りきれない大きさや状態の腫瘍に対して導入し、治療を行っています。それまでは外科的手術でしか取ることのできなかった腫瘍を内視鏡的粘膜下層剥離術 (Endoscopic Submucosal Dissection: ESD)の開発により、より大きな病変を正確に一括切除できるようになりました。内視鏡で治療できるがんは、リンパ節などに転移する可能性が極めて低いものが原則となります。
どこまで内視鏡治療を行うかは施設間で差はありますが、当科では食道、胃、大腸のみならず耳鼻科と共同で咽頭領域の表在腫瘍にも導入し、また一般的に困難病変とされる巨大病変や治療困難部位、潰瘍瘢痕合併病変についても積極的に対応し、良好な成績を収めています。

内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)
専用の内視鏡を口から十二指腸まで挿入し、十二指腸と胆管と膵管が合流するファーター乳頭という部位を視ながら、造影カテーテルを胆管・膵管に挿入し、造影剤を注入して撮像します。総胆管結石や胆道がん、慢性膵炎や膵臓がんなどに対する診断的ERCPの他、これらの疾患によって起こる症状に対する治療的ERCPも行われます。
内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)
内視鏡的採石(砕石)術・内視鏡的乳頭拡張術(EPBD)
内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)とは十二指腸乳頭(総胆管の十二指腸への出口)を広くする目的で内視鏡を通して挿入した電気メスで切開する処置です。ERCPに引き続いて行われ、総胆管結石の治療やステントの挿入時に必要になります。総胆管結石があった場合は拡張した乳頭から総胆管内にバスケット状のワイヤーを入れて結石を十二指腸に引き出します。結石が大きい場合は特殊なバスケットカテーテルを胆管内に挿入して石を小さく砕くこともあります。
EPBDはESTと同じく乳頭を広げる処置ですが、電気メスではなくバルーン(小さな風船)で乳頭部を拡張する手技です。偶発症としての出血が起きにくいのでESTの代替として選択もしくは、ESTと組み合わせて行うことでより良好な乳頭拡張を得ることができます。

超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)
膵臓癌など体の深部にある疾患は、診断のために針で臓器の一部を吸引することが困難であり、検査のために開腹手術をすることもありました。かつては、しっかりと病気の診断がつかないまま診断を兼ねた手術や、時には抗がん剤治療をせざるを得ないこともありました。
そのような中、内視鏡の先端に付けた超音波で病変を確認しながら針を刺す検査方法(Endoscopic UltraSound-guided Fine Needle Aspiration:EUS-FNA)が開発され2010年より保険診療として認可されました。より安全かつ効率よく診断できることから、世界的に本検査方法が一般的に行われるようになり、当院でも2015年度から導入しています。
具体的には食道、胃、十二指腸などの消化管を通して超音波画像で病変を評価しながら針で穿刺し、内視鏡的に組織を採取することが目的です。対象となる病変は、胃・十二指腸の粘膜下腫瘍、膵臓、胆道、肝臓の腫瘍、腹腔内リンパ節などです。採取した組織は病理診断医が顕微鏡で細かく観察し、今後の治療方針を決定する材料とします。検査時間は通常30~60分程度です。


施行後の合併症発生時に対処しやすいように基本的には入院での施行となります。穿刺に伴う出血、消化管穿孔、他臓器穿刺、感染症、膵炎などが起こりえますが、いずれも発症頻度は1%未満であり重篤化することは非常にまれです。万が一、合併症を発症した場合には緊急処置や治療、入院期間の延長などにより最善の対応をします。
Specialistとしての取り組み
電気水圧衝撃波胆管結石破砕(EHL:Electronichydraulic lithotripsy)
経口胆道鏡(POCS:peroral cholangioscopy)とはERCP下に、胆管(や膵管)に細長い管状の内視鏡を挿入し、精細な画像を得る方法です。これまでは造影剤の分布や超音波像でしか確認できなかった胆管の内腔の精密画像によって多くの情報が得られます。
当院では胆管内を直接観察する胆道鏡「Spy Glass DS」を導入し、巨大な総胆管結石など従来の治療法では採石が困難であった症例において,この経口胆道鏡下に直接、結石を確認し、細い管の先から電気水圧の衝撃で結石を破砕することができるようになりました。現在は完全予約制で運用しています


経肛門内視鏡的筋層切除術(PAEM)について
当センターでは、ESDを応用した高度治療「PAEM(経肛門内視鏡的筋層切除術)」を行っています。これは直腸に限定した病変を内視鏡で治療する手術で、2015年に神戸大学の内視鏡グループが初めて報告1)しました。
通常、深く入り込んだ大腸腫瘍は外科手術が推奨されますが、直腸がんの場合、肛門機能の低下や人工肛門を避けたいと内視鏡治療を希望する患者さんもおられます。そのような腫瘍にESDを行うと不完全な切除や術後の転移リスクの評価が難しい場合がありましたが、PAEMは1段階深い筋層という層を部分的に精密に剥離することでこれらの課題を解決する治療法です。ただし、すべての方に適用できるわけではなく、術後の病理検査で結果によっては外科と協議し、改めて外科手術をお勧めすることもあります。
- First reported case of per anal endoscopic myectomy (PAEM): A novel endoscopic technique for resection of lesions with severe fibrosis in the rectum